ネコミミにひかりあれ

エッセイを書いています。

夏の日、オレンジ色の地下鉄

もはやごちゃごちゃになってしまった私の記憶。あの頃の地下鉄の駅員さんの制服って緑色を煮詰めたような色してたんだっけ。先日の「クローズアップ現代」を、母と二人でじっと見た。日比谷線と思われる、まあまあ広い駅が写り、母と「これどこの駅だろう」「築地じゃなさそうだな」という話をして、そういえば一番被害が大きかったのはどこだっけ、とリビングにいる父を二人で振り返ると、父は寝ていた。
それで母がふと「そもそもなにこれ」と言うので「クローズアップ現代」と返すと「いや、なんでそんなの見てんの…」とチャンネルを報道ステーションに変えた。

夏の日に駅前までの道を歩くと、大体祖母に手を引かれた記憶が蘇る。繰り返しこうして思い出して眺めてしまったから、本当と編集がごちゃまぜになってしまったけど。祖母はいつも白い日傘をさしていた。それで二人でオレンジ色の地下鉄に乗って、母が入院しているところまで行っていた。私は当時幼稚園に行っていたので、帰ってきたら着替えて祖母と二人で都会の病院まで行っていたんだと思う。あとから「となりのトトロ」を見た時に、あれ、こういうことを私もやっていた、とぼんやり思ったものだった。
オレンジ色の地下鉄に揺られた先には、さらにカラフルな行き先表示が床に敷いてあった。そこで祖母と二人で病室に行く、ところまでは思い出せない。いま思い出せるのは年をとって、父が酔ったはずみでタクシーのドアに足を挟み骨折して入院した病室か、祖母が目の病気を患って入院した病室のどちらかだ。オレンジ色の地下鉄に乗り、カラフルな行き先表示の先には、もう未来の私がこちらを見ている。