ネコミミ新世界

日記その他もろもろ

生まれた街を出ていない

私は生まれた街を出ていない。
もう20年以上この街にいるのだから、当然、知り合いは多い。その殆ど全ては祖母の知り合いで、だから年が2倍か、3倍ぐらい離れた"お姉様"たちなのだった。
昔は台所にそのお姉様方が多い時で5人ほど集まってはお茶を飲み、あの病院はダメだとかあの奥様がどうだとか、そのような話をしていた。
その輪の中に入れてもらえるととても嬉しかったのを覚えている。

一人、また一人とその輪に集まる人が減り、祖母も痴呆になり、輪は無くなってしまった。
祖母の葬式は家族のみだったけど、亡くなったあとに訪ねてくれる人が何人かいた。
「もうボケも治って、正気になって見てるよ」と玄関先で言ってくれたのを覚えている。
それを言ってくれたお姉様も何歳になるのだろう。

初夏の暑い道を歩いている時、見慣れた後ろ姿があって、追い越して声をかければお隣に住むお姉様だった。
ひとしきり話をしたあと、今日は法事、と仰って、あのね、笑っちゃう話なんだけどね、と続けた。
「喪服をね、出してみたらね。肩のあたりは痩せて肉が落ちちゃってるし、背は縮んだでしょう。全然ぶかぶかで、入らなくなっちゃってたの」だから、間に合わせでこういう服を着たのよ、と彼女が笑った。
言われてみれば、私の記憶にある姿はもうすこし「おばさま」というような体型ではなかったか。昔から太い方ではなかったし、細身の方だったけど、たしかに肉がこそげたような細さになっていた。

それから「行ってらっしゃい」と私に先に行くように促すと、挨拶をして駅への道を走った。
あと5分ほどで乗らなくてはならない電車が来てしまう。

たまに駅でお姉様方に会うと嬉しくてつい話し込んでしまう。あと何年、ばったり会っては立ち話を出来るのだろう。私は彼女たちを覚えているけど、彼女たちは私を忘れてゆくと思う。